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極楽征夷大将軍
やる気なし 使命感なし 執着なし
室町幕府の祖・足利尊氏の数奇な運命。
動乱前夜、鎌倉府では北条家の独裁政権が続いて、幕府の信用は地に堕ちていた。
足利直義(あしかがただよし)は、怠惰でやる気の無い兄・尊氏を常に励まし、幕府の粛清から足利家を守ろうと必死だった。そして後醍醐天皇から北条家追討の勅命が下り、一族を挙げて鎌倉幕府に反旗を翻した。
倒幕後、足利家の家宰である高師直(こうのもろなお)は、朝廷の治世が来たことに愕然とする。後醍醐天皇には、武士に政権を委ねるつもりなどさらさらなかったのだ。そして朝廷の治世は、時の経過とともに破綻の度合いを増していく。
師直は、怒り狂う直義と共に新生幕府の樹立を画策し始める。むろん、頼りにならぬ尊氏など抜きにしてだーー。
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単行本
文藝春秋
2200円(税込)
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こんな男が、どうして初代征夷大将軍となったのか?
今回の小説の主人公は足利尊氏で、言わずと知れた室町幕府の開祖です。ですが、「太平記」を読んだ人でも、この人物が一体どういう性格だったか、何を考えていたの、ということを、より現代的な視点で理解している方は少ないのではないのでしょうか?
むろん私もその一人で、六、七年ほど前から尊氏の資料を読み始めました。そして、いろんな資料に当たれば当たるほど、唖然としました。「よくもまあ、こんな『ふやけ切った』人物が、新たな幕府を開けたものだ」と。
そのやる気の無さ、使命感や覇気の欠如、人としてのだらしなさ、世事における無能さ、いずれも歴史上の人物の中では群を抜いた駄目っぷりです。途中で改心もしません。唯一の取り柄は無責任に人が良いという、その一点のみです。ここまで徹底して駄目人間だと、もはやあっぱれに感じます(笑)。
しかし、この尊氏という泥人形(どろにんぎょう)こそが、楠木正成や新田義貞、後醍醐天皇などといった同時代の名将傑物を次々と下して、足利幕府を開いたのです。その人の世の不思議さに、いたく興味をそそられました。
足利尊氏という「愚かさ」純度95%で成り立っている人物を、書いてみたいと思いました。何故なら、私もかなりの純度で愚か者だからです(苦笑)。そして単行本化に当たり、1700枚あった連載原稿を1350枚まで削って、なんとか一冊の本にまとめることが出来ました。それでも1ページに付き26文字×21行の二段組という、ビタビタの文字詰まりで560ページほどあります。ちょっと長いですが、良かったら読んでみてください。