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光秀の定理

明智光秀はなぜ瞬く間に出世し、織田信長と相前後して滅びたのか?

永禄3(1560)年の京。牢人中の明智光秀は、若き兵法者の新九郎、辻博打を行う破戒僧・愚息と運命の出会いを果たす。光秀は幕臣となった後も二人と交流を続ける。

やがて織田信長に仕えた光秀は、初陣で長光寺城攻めを命じられた。敵の思わぬ戦略に焦る中、愚息が得意とした「四つの椀」の博打を思い出すが──。

何故、人は必死に生きながらも、滅びゆく者と生き伸びる者に別れるのか?

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もし、十年……。

作家としてデビューした頃から、ずっと心で思ってきたことがありました。
もしプロとして十年、小説を書き続けられていられたのなら、そのときは歴史小説を書き始めよう、と……。

理由は簡単です。ありとあらゆる小説のジャンルの中で、歴史小説をもっとも読んできたからです。好きなのです(笑)。今でもそれは変わりません。
例えば『ワイルド・ソウル』や『ゆりかごで眠れ』も、部分的には現代における歴史小説として書いたつもりです。そういう意味での試みは、実は密かにやっておりました。
とはいえ、本格的な歴史小説をすぐに書き始めるには、やはり自分の中で憚られるものがありました。その前に、やることがあるだろう、と。

まずは自分なりの歴史認識を(特に)中世から近世にかけてある程度しっかりと作り上げること。それと同時に、平安末期から勃興した武士の、明治に至るまでの精神構造の変遷と、鎌倉期と室町期から一般に浸透し始めた様々な仏教が、人々に植え付けた世界観を抑えるのは、最低限やらなくてはいけないことだろう、と考えました。
それにはたぶん、最低でも十年はかかるな……と。

しかし、以上のことをキッチリと抑えなければ、たとえ書き出したにしても、妙に薄っぺらい、単に『現代の人間のありようとその関係を、その時代に移し変えただけ』の歴史小説になるのではないか、と危惧しました。
現代にも通じる人間の業と心理の葛藤を、その時代ならではの精神構造の特色を生かして焙り出したい。そういう歴史小説を書くのが、私の目標でした。

まあ、そんなわけで、プロとしてデビューしてから今まで、メインでは現代小説を書きながらも、歴史関係の資料や文献、仏教書を読み漁っておりました。

そして今から三年前の十年目に、誰にしようかとさんざん悩んだ挙句、一発目の歴史小説の題材として『明智光秀』をチョイスしました。
何故、明智の十兵衛、光秀??

それは、私から見た彼の精神構造が四百年以上も前の人間にもかかわらず、非常にモダンに感じたからです。そしてそのモダンな精神構造を、彼の謎に満ちた前半生を中心に書き起こしたいと考えました。さらに言えば、光秀の苦悩に満ちつつも、ある意味滑稽で、明るい青春時代(笑)を書きたかったということです。

そして、その過程を描くことで、彼が何故、織田信長に仕えてから瞬く間に軍団随一の知将となり得たのか、そして本能寺の変を起こすに至ったのかを、とある『定理』を通して、自分に出来る限りの斬新な手法を駆使して描いてみようと考えました。
そしてデビューして13年目の今年、ようやく形になりました。
よろしくお願いいたします。

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