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信長の原理
何故おれは裏切られ続けて死にゆくのか。
本能寺の変は、構造の中にある。
信長の飽くなき渇望と、家臣たちの終わりなき焦燥……。焼けつくような思考の交錯が、ある原理を浮かび上がらせ、すべてが「本能寺の変」の真実へと集束してゆく。未だ見ぬ信長の内面を抉り出す、革命的歴史小説!
吉法師は母の愛情に恵まれず、いつも外で遊んでいた。長じて信長となった彼は、破竹の勢いで織田家の勢力を広げてゆく。けれど信長には、以前から密かに苛立っていることがあった――どんなに兵団を鍛え上げても、能力を落とす者が必ず一定の割合で出てくる。そんな中、蟻の行列を見かけた信長は、ある試みを行う。結果、恐れていたことが実証される。
神仏などいるはずもないが、確かに『この世を支配する何事かの原理』は存在する……。
やがて案の定、家臣で働きが鈍る者、織田家を裏切る者までが続出し始めた。天下統一を目前にして、信長は改めて気づいた。いま最も良い働きを見せている羽柴秀吉、明智光秀、丹羽長秀、柴田勝家、滝川一益……だが、あの法則によれば、最後にはこの五人からも一人、おれを裏切る者が出るはずだ。
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効率至上主義を是とした、気の毒な男の生涯。
角川書店より『信長の原理』(1800円-税別)が発売になります。
この小説が、織田信長の生涯と、その末期に起こる本能寺の変の、私なりの結論です。
二年前の八月に連載を始め、当初は一年ほどの予定で原稿用紙600~700枚前後の作品を想定していました。ですが、信長という題材は予想以上に手強く(汗)、終わってみれば二年近くの連載になり、原稿用紙1150枚前後と、ほぼ倍のボリュームになってしまいました。以前に書いた『ワイルド・ソウル』と同じくらいの分量です。おかげで、去年は新作を出せずじまいでした(苦笑)。
そして、危うく上下巻の二冊になるところを、出来るだけ安価にしたいと思い、物語を刈り込んで1000枚前後まで圧縮し、ようやく一冊にまとめ上げることが出来ました。それでも単行本で600ページ弱になり、今までで最も分厚い単行本となりました。
で、ここからが本題です。
私は、信長という人物は巷で言われるような天才では決してなく、物事の原理と組織構造の効率を愚直に、そして執拗に追及していった結果が、あの苛烈な生き方と、悲劇的な最後に繋がったのだろうと感じます。もし彼が本物の天才なら、部下に殺されることなどもなかったでしょうしね(笑)。
ちなみに著名な投資家、ジョージ・ソロスの言葉に以下のものがあります。
「私たちがいま住む世界についての理解は、もともと不完全であり、完全な社会などは到達不可能なのだ。ならば、私たちは次善のもので良しとせねばならない。それは、不完全な社会ではあるが、それでも限りなく改善していくことはできる社会である」
私は、職業的投資家と呼ばれる人たちはあまり好きではありませんが、その好悪を措いても、この言葉は、ある種の真実を突いていると思います。かつてのソ連の崩壊なども、ここに端を発している面もあるのではないかと感じられます。
信長が懸命に突き詰めていったこの世の原理と組織構造が、結果として織田家を急拡大させ、しかし、その構造上の瑕疵(かし)が、家臣たちの苦悩と焦燥を生み、結果として本能寺の変を呼び込んでしまったのではないか……。
で、このテーマを信長とその家臣たちという関係性のみに絞り、ひたすらに最短距離で書いてきましたが、実際に書いてみると(当然の帰結ではありますが)、信長ほど部下や同盟者に事ある度に裏切られた部将も稀だろうと、ひどく実感させられました。その側面では、気の毒な人間でもあります。
ですがまあ、皆さんにはこのような理屈は抜きにして、純粋にエンターテイメントとして、楽しく読んでもらえればと思います。