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Vol.059
文庫版『迷子の王様〜君たちに明日はない5』が、10月28日に発売になります&シリーズ最終巻に思う事
2016年10月28日
皆さんこんにちは、垣根です。
さて、文庫版の『迷子の王様〜君たちに明日はない5』(新潮文庫・550円税別)が、10月28日に発売になります。
これで『君たちに明日はない』のシリーズは、文庫版でもこの五巻目をもって完結させて頂くことと相成りました。
思い起こせば、このシリーズの一巻目を連載し始めたのが、2004年のことでした。
そして一巻目を2005年に刊行。それから二年ごとに一冊ずつ書き続けてきたこのシリーズも十二年で終了を迎え、個人的にも感慨深いものを感じております。
この作品を通して十数年間ずっと「仕事とは何か?」を考え続けてきた意味は、今後の私にとっても大きな指針になると思っています。できれば読者の皆さんにとっても、そうであってもらえればと切に願っております。
ちなみに、一巻目からの文庫の解説を書いてくれた作家を、順次ご紹介します。
どの解説も、私が好きな知り合いの作家や脚本家に依頼して書いてもらいました。
一巻目『君たちに明日はない』・解説は、篠田節子さん
二巻目『借金取りの王子』・解説は、宅間孝行さん
三巻目『張り込み姫』・解説は、東山彰良さん
四巻目『永遠のディーバ』・解説は、栗田有起さん
そして五巻目の本刊では、さすがにラストなので、私が長〜い『あとがき』をシリーズの総括として書かせていただきました(笑)。
さて、ここから先は、チト固い話です。
現代は、資本主義経済がほぼ極限まで進んだ結果、地域社会や血縁社会のセイフティーネットが崩れ始め、結果として職業選択や転職、結婚や離婚、第二の人生の選択など、個人としての生き方の自由が、有史上類を見ないほど大幅に拡大された時代になりました。
ある意味、自分なりの生き方をコンプリートに目指す人には幸せな時代とも言えますが、しかし、この『生き方の選択の自由』は、常にそれをチョイスした『自己責任』をセットとして問われ続ける、という事でもあります。
その時々のチョイスを自分で行った場合、それがうまくいけばいいですが、もしうまくいかなかった場合、すべてが自己責任だというキツいプレッシャーを、現代に生きる我らは、常に背負い続けていく宿命にあるのです。
時にはそんな責任などぶん投げて、逃げ出したくなることもあるでしょう。
もっと気楽に生きたいと思うこともあるでしょう。
(ちなみに、これらに類似することは、エーリッヒ・フロムがその著作『自由からの逃走』の中でも書いています)
しかし、その是非は措いたところで、現代の社会システムは、個人にこれら責任の回避を許さないところまで進んできていると考えます。都会で必死に生活している人にとっては、なおさらでしょう。
私に、この自由と自己責任に溢れた時代をうまく生きる解決策はよく分かりませんが、
(たぶん、完全なる答えはないと思います。少なくとも、テレビや生き方のノウハウ本などでよく言われる『Aだから、すなわちBよ!』みたいなワンステップのみの考え方で、万事うまくいく、という事はないと考えています。分かりやすく、耳心地は良い言葉ですがね。……とまあ、それはさておき、)
できればそんな迷ったり悩んだりした時に、この『君たちに明日はない』を読んで、みなさんにとりあえずの元気を持ってもらうことが出来れば、と思って書き続けてきました。
以上の事を受け、スペインの思想家であるオルテガ(1883-1955年)の言葉を引いて、今回のドーニングメールの終わりと致します。
「実際の生とは、一瞬ごとにためらい、同じ場所で足踏みし、いくつもの可能性の中のどれに決定すべきか迷っている。この形而上的ためらいが、生と関係のあるすべてのものに、不安と戦慄という紛れもない特徴を与えるのである」
(大衆の反逆:1930年〜中公クラシックス P92)
皆さま、このシリーズを長い間ご愛読いただき、ありがとうございました。
垣根涼介
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